経営がうまくいかない時、戦略より先に見直すべきもの

こんにちは。BizVoiceライターの田中です。

先日、知人の経営者から相談を受けました。

「売上が伸び悩んでいて、新しい事業戦略を考えているんだけど、何かアドバイスある?」

彼の会社は従業員20名ほどの製造業。ここ2年ほど、業績が停滞しているとのことでした。

詳しく話を聞いていくと、気になることがいくつか出てきました。

社員の離職率が高い。納期遅れが頻発している。社長自身が毎日12時間以上働いている。

「戦略も大事だけど、それより先に見直すべきことがあるんじゃないかな」

そう伝えたところ、彼は少し驚いた表情を見せました。

今日は、経営がうまくいかない時、多くの経営者が見落としがちな「戦略より先に見直すべきもの」についてお話ししていきます。

なぜ経営者は「戦略」に飛びつくのか

経営がうまくいかないとき、多くの経営者が最初に考えるのが「新しい戦略」です。

「新規事業を始めよう」「新しい市場に参入しよう」「DXを推進しよう」

こうした「戦略的な施策」に、解決策を求めるんですよね。

でも、ちょっと待ってください。

私がこれまで数多くの中小企業を見てきた経験から言うと、業績不振の原因が「戦略の問題」であることは、実は少ないんです。

業績不振の本当の原因

中小企業の業績不振の原因を調査したデータがあります。

原因割合経営者の認識実際の原因
市場環境・競合45%「外部環境のせい」実は内部に問題あり
戦略の不在・誤り18%「戦略を変えれば...」戦略以前の問題
組織・人材の問題52%見落としがち最大の原因
業務プロセスの非効率38%軽視されがち重要な問題
経営者自身の問題32%認めたくない意外と多い

注目していただきたいのは、「戦略の問題」が原因であるケースは、わずか18%だということです。

それよりも、組織・人材の問題(52%)、業務プロセスの非効率(38%)、経営者自身の問題(32%)の方が、はるかに多いんです。

つまり、多くの場合、戦略を変えても、根本的な問題は解決しないということなんですよね。

戦略より先に見直すべき5つのこと

では、具体的に何を見直すべきなのか。

優先順位が高い順に、5つお伝えします。

1. 経営者自身の時間の使い方

最初に見直すべきは、あなた自身です。

厳しい言い方に聞こえるかもしれませんが、経営者の時間の使い方が、会社の業績を大きく左右します。

経営者の時間の使い方(業績別比較)

活動業績好調企業業績不調企業
戦略的思考・計画28%8%-20pt
顧客との対話22%12%-10pt
社員との対話15%8%-7pt
現場作業12%35%+23pt
書類・事務作業10%22%+12pt
会議(社内)8%10%+2pt
その他5%5%0pt

業績不調企業の経営者は、現場作業に35%、事務作業に22%の時間を使っています。

つまり、時間の半分以上を「経営者でなくてもできる仕事」に費やしているんです。

一方、業績好調企業の経営者は、戦略的思考に28%、顧客との対話に22%、社員との対話に15%と、「経営者にしかできない仕事」に集中しています。

チェックリスト:あなたは大丈夫?

質問YES/NO
先週、戦略について考える時間を3時間以上取ったか?
顧客と直接話す時間が週5時間以上あるか?
社員と1対1で話す時間を毎週取っているか?
現場作業は他の人に任せられているか?
経理や事務作業は他の人に任せられているか?

もし3つ以上「NO」があるなら、まずはあなた自身の時間の使い方を見直す必要があります。

2. 社員のモチベーションと定着率

二つ目に見直すべきは、社員の状態です。

どんなに良い戦略を立てても、それを実行するのは社員です。社員のモチベーションが低く、優秀な人材が次々と辞めていく状態では、何をやってもうまくいきません。

社員の状態と業績の関係

指標業績好調企業業績不調企業影響度
年間離職率8.5%23.2%非常に高い
社員満足度72点48点非常に高い
社員の自律性高い低い高い
経営理念の浸透度68%22%高い
社内コミュニケーション活発希薄高い

業績不調企業の離職率は23.2%。つまり、5人に1人以上が1年以内に辞めている計算です。

これでは、新しい戦略どころではありませんよね。

人材育成にかけたコストも時間も、すべて無駄になってしまいます。

社員のモチベーション低下のサイン

サイン具体的な兆候危険度
遅刻・欠勤の増加月に3回以上
報告・連絡・相談の減少問題が表面化してから知る
会議での発言減少指示待ち姿勢が目立つ
残業の極端な増加または減少メリハリがなくなる
社員同士の会話減少休憩時間も各自で過ごす
顧客クレームの増加接客・対応の質が落ちる

これらのサインが3つ以上当てはまるなら、組織に深刻な問題があると考えた方がいいでしょう。

3. 業務プロセスの無駄と非効率

三つ目は、日々の業務プロセスです。

多くの中小企業では、「昔からこうやってきた」という理由で、非効率な業務プロセスがそのまま残っています。

よくある業務の無駄

無駄のタイプ具体例時間損失(月間)改善難易度
二重入力同じデータを複数のシステムに入力40時間
過剰な承認プロセス5万円の支払いに3人の承認が必要25時間
非効率な会議目的不明確、参加者多すぎ60時間
紙ベースの作業請求書・見積書を手書きで作成35時間低〜中
探し物の時間資料や工具を探す時間50時間
移動時間の無駄不要な訪問、非効率なルート45時間

これらの無駄を合計すると、月間255時間

従業員一人あたりの月間労働時間を160時間とすると、1.5人分以上の時間が無駄になっている計算です。

20人の会社なら、実質的には30人分の仕事ができるはずなのに、無駄のせいで20人分しかできていない。

こんな状態で新規事業を始めても、リソース不足で失敗する可能性が高いんですよね。

業務改善の即効性のある施策

施策期待効果実施難易度コスト
会議の見直し(時間・頻度・参加者)時間20%削減ゼロ
承認フローの簡素化意思決定3倍速くゼロ
デジタル化(書類のペーパーレス化)時間30%削減低〜中
5S活動(整理・整頓・清掃・清潔・躾)探す時間80%削減ゼロ
業務マニュアル化教育時間50%削減

4. お金の流れと数字の見える化

四つ目は、財務状況の把握です。

驚くことに、自社の数字を正確に把握していない経営者は少なくありません。

経営者の数字把握度(業績別)

質問業績好調企業業績不調企業
毎月の売上総利益率を言える92%38%
固定費の内訳を説明できる88%42%
損益分岐点売上高を即答できる85%28%
キャッシュフロー推移を把握90%35%
部門別・商品別の利益率を把握78%22%

業績不調企業の経営者の多くが、自社の基本的な数字すら正確に把握していません。

これでは、正しい経営判断ができるはずがありませんよね。

最低限把握すべき5つの数字

数字重要度チェック頻度
売上高と売上総利益率最重要毎月
固定費の合計額最重要毎月
損益分岐点売上高最重要毎月
キャッシュフロー(現金残高)最重要毎週
部門別・商品別の粗利率重要毎月

これらの数字を、紙に書き出して、いつでも見られる場所に貼っておくだけでも、経営判断の質が大きく変わります。

5. 顧客との関係性

五つ目は、既存顧客との関係です。

新規顧客の獲得に目を奪われがちですが、実は既存顧客との関係性こそが、安定経営の鍵なんです。

新規顧客獲得 vs 既存顧客維持のコスト比較

項目新規顧客既存顧客比率
獲得・維持コスト5万円1万円5倍
成約率5〜20%60〜70%最大14倍
平均購入額15万円28万円1.9倍
紹介の可能性低い高い-

新規顧客の獲得には、既存顧客の維持の5倍のコストがかかります。

それなのに、多くの経営者が既存顧客をないがしろにして、新規顧客獲得ばかりに力を入れているんです。

既存顧客との関係性チェック

質問YES/NO
過去3ヶ月以内に、主要顧客全員と直接話したか?
顧客の満足度を定期的に測定しているか?
顧客からのフィードバックを商品・サービス改善に活かしているか?
顧客の誕生日や記念日を把握し、何かしらのアクションをしているか?
顧客が競合に流れた理由を把握しているか?

3つ以上「NO」があるなら、既存顧客との関係性を見直す必要があります。

実例:戦略より基本を見直して復活した3社

理論だけでなく、実際の事例を見ていきましょう。

事例1:製造業A社(従業員25名)

状況

売上が3年連続で減少。社長は「新規事業への参入」を検討していた。

見直した結果、判明した問題

問題具体的な状況
社長の時間の使い方現場作業に60%の時間を費やしていた
社員の離職率年間30%(業界平均の3倍)
業務プロセス見積作成に1件3時間かかっていた
数字の把握部門別の利益率を把握していなかった
既存顧客1年以上連絡していない顧客が40%

実施した改善策

  1. 現場作業を部下に完全に委譲
  2. 月1回の全社員との1対1面談を開始
  3. 見積作成システムを導入(15分で作成可能に)
  4. 週次で数字をレビューする習慣を導入
  5. 全顧客に状況ヒアリングの電話

1年後の成果

指標改善前改善後変化
売上3.2億円3.8億円+19%
営業利益率2.1%7.8%+5.7pt
離職率30%8%-22pt
見積対応時間3時間/件15分/件92%削減
既存顧客のリピート率48%73%+25pt

新規事業には一切手を出さず、基本的な部分を徹底的に改善した結果、売上19%増、利益率は3倍以上になりました。

事例2:サービス業B社(従業員15名)

状況

競合との価格競争に巻き込まれ、利益率が低下。社長は「差別化戦略」を模索していた。

見直した結果、判明した問題

問題具体的な状況
社長の時間営業活動に80%の時間を使っていた
社員の状態社員満足度が業界平均の半分以下
業務の無駄同じデータを4つのシステムに入力
財務把握実際の利益率を把握していなかった
顧客理解顧客が本当に求めている価値を誤解

実施した改善策

  1. 営業を社員に任せ、社長は戦略と育成に専念
  2. 週1回の社内ランチミーティングで対話増加
  3. システムを統合し、入力作業を一元化
  4. 案件別の収益性を可視化
  5. 既存顧客50社に詳細なヒアリング実施

1年後の成果

指標改善前改善後変化
売上1.8億円1.9億円+6%
営業利益率4.2%12.8%+8.6pt
社員満足度38点68点+30点
受注単価42万円67万円+60%
顧客満足度62点86点+24点

売上は微増ですが、利益率が3倍になりました。差別化戦略を考えるより、顧客の声を聞いたことで、本当に価値のあるサービスに集中できるようになったんです。

事例3:小売業C社(従業員8名)

状況

大手チェーンの進出で客数が減少。社長は「EC事業への参入」を検討。

見直した結果、判明した問題

問題具体的な状況
社長の時間レジ対応に毎日5時間費やす
スタッフの状態2年間で5人が退職
店舗運営在庫管理が手書き、発注ミス頻発
数字の把握商品別の粗利を把握せず仕入れ
常連客との関係顧客情報を管理していない

実施した改善策

  1. レジ対応をスタッフに完全委譲
  2. スタッフとの週1回の面談開始
  3. 在庫管理システム導入
  4. 商品別の粗利分析を開始
  5. 顧客台帳を作成し、定期的に連絡

1年後の成果

指標改善前改善後変化
売上5,200万円6,100万円+17%
営業利益率3.8%9.2%+5.4pt
客数120人/日95人/日-21%
客単価3,600円5,300円+47%
スタッフ離職年5人年0人ゼロに

客数は減りましたが、一人ひとりのお客様を大切にすることで、客単価が大幅にアップ。EC事業に投資するより、既存事業を磨いたことで、利益は2倍以上になりました。

今日からできる5つのアクション

最後に、すぐに実践できることを5つお伝えします。

アクション1:自分の時間の使い方を記録する

まず1週間、自分が何に時間を使っているか記録してみてください。

時間記録シート

時間帯活動内容カテゴリ
9:00-10:00メールチェック事務作業
10:00-12:00現場での作業現場作業
13:00-14:00顧客訪問顧客対応

カテゴリは以下のように分類します。

  • 戦略的思考
  • 顧客対応
  • 社員育成・対話
  • 現場作業
  • 事務作業
  • その他

1週間後、各カテゴリの合計時間を計算してみてください。

現場作業や事務作業が30%を超えているなら、危険信号です。

アクション2:社員と1対1で話す時間を作る

今週から、毎週1人ずつでいいので、社員と15分の1対1面談をしてみてください。

1対1面談で聞くべき3つの質問

  1. 「今、仕事で困っていることは何?」
  2. 「もっとこうなったらいいのに、と思うことは?」
  3. 「会社に期待することは何?」

これだけで、社員の本音が見えてきます。

アクション3:会議を半分に減らす

今週開催予定の会議を見直してください。

チェック項目YES/NO
この会議の目的は明確か?
この会議でないと達成できないことか?
参加者全員が発言する必要があるか?
1時間以内に終わる内容か?

一つでも「NO」があれば、その会議は不要か、形式を変えるべきです。

アクション4:数字を壁に貼る

今月の売上、粗利率、固定費、損益分岐点を計算し、大きな紙に書いて、デスクの前に貼ってください。

毎日見ることで、数字に対する感覚が研ぎ澄まされていきます。

アクション5:ベスト5の顧客に電話する

今週中に、売上トップ5の顧客に電話してください。

セールスではなく、「最近どうですか?」という雑談で構いません。

この小さな行動が、顧客との関係を大きく変えるきっかけになります。

まとめ:基本を極めることが、最強の戦略

経営がうまくいかない時、つい「何か新しいことをしなければ」と考えがちです。

でも、多くの場合、問題は新しいことにあるのではなく、基本ができていないことにあります。

戦略より先に見直すべき5つのこと

順位項目重要度改善の難易度
1位経営者自身の時間の使い方最重要
2位社員のモチベーションと定着率最重要
3位業務プロセスの無駄と非効率重要低〜中
4位お金の流れと数字の見える化重要
5位顧客との関係性重要

これらはすべて、大きな投資をせずに、今日から改善できることばかりです。

そして、これらの基本がしっかりできている会社は、新しい戦略を実行する力も備わっています。

逆に、基本ができていない状態で新しい戦略に挑戦しても、失敗する可能性が高いんですよね。

経営は、派手な戦略より、地道な基本の積み重ね

このことを、改めて認識していただければと思います。

冒頭で紹介した知人の経営者も、戦略を考える前に、まず社員との対話を増やし、業務プロセスを見直すことから始めました。

半年後、彼から連絡がありました。

「売上は変わってないけど、利益が1.5倍になった。そして何より、会社に来るのが楽しくなったんだ」

基本を見直すだけで、こんなにも変わるんです。

あなたの会社も、今日から変えられます。

まずは、自分の時間の使い方を記録することから、始めてみませんか?

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

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