社長一人で回している会社が陥りやすい"3つの罠"

「もう少し人を雇えば楽になるのに」「なぜ自分ばかりが働いているのか」——そんな思いを抱えながら、今日も会社を一人で切り盛りしている社長は少なくありません。

日本の中小企業の多くは、社長がプレイングマネージャーとして営業から経理、人事まであらゆる業務をこなす「一人社長」状態にあります。この記事では、社長一人で会社を回し続けることで陥りやすい「3つの罠」と、その脱出方法について詳しく解説します。


目次

  1. なぜ「社長一人経営」は危険なのか?
  2. 【罠①】業務の属人化——社長がいないと会社が止まる
  3. 【罠②】燃え尽き症候群——休めない社長の末路
  4. 【罠③】後継者不在——会社の未来が見えない
  5. 3つの罠に陥っていないかセルフチェック
  6. 罠から抜け出すための5つのステップ
  7. 実践者の声——脱・一人経営に成功した社長たち
  8. まとめ

なぜ「社長一人経営」は危険なのか?

中小企業の社長が抱える現実

中小企業白書によると、小規模事業者の経営者の1日の平均実労働時間は9時間26分。一般労働者(8時間16分)と比較して約1時間以上長く働いています。

さらに、人手不足への対応として「経営者の労働時間を増やし対応」と回答している経営者の平均労働時間は10時間8分にも及びます。

区分1日の平均実労働時間備考
小規模事業者の経営者(全体平均)9時間26分一般労働者より約1時間長い
人手不足対応で労働時間増の経営者10時間8分その他の経営者より約1時間長い
一般労働者(5〜30人規模事業所)8時間16分厚労省調査より

相談相手がいない孤独な経営者

野村総合研究所の調査によると、従業員がいない1人社長の約半数に相談相手がいないという衝撃的な結果が出ています。

従業員規模相談相手がいない経営者の割合
従業員0人(1人社長)約50%
従業員1〜5人約35%
従業員6〜20人約25%
従業員21人以上約15%

経営者は孤独な存在とよく言われますが、その実態はデータにも如実に表れています。社内には本音を打ち明けられる相手がほとんどおらず、外部に相談相手を求めることも難しいのが現実です。


【罠①】業務の属人化——社長がいないと会社が止まる

属人化とは何か

「属人化」とは、特定の業務が特定の人(この場合は社長)に依存し、その人がいないと業務が回らなくなる状態を指します。社長一人で会社を切り盛りしている場合、ほぼ確実にこの罠に陥ります。

属人化が進む5つの原因

原因具体的な状況危険度
「自分でやった方が早い」思考教える時間がないため、結局自分で処理してしまう★★★★★
マニュアル・手順書がない業務手順が社長の頭の中にしかない★★★★★
人員に余裕がないそもそも業務を分担する相手がいない★★★★☆
専門性の高い業務高度な判断が必要で任せられない★★★☆☆
情報共有の仕組みがない共有するツールや文化がない★★★★☆

属人化が招く深刻なリスク

属人化は単なる「不便」では済みません。以下のような深刻なリスクを招きます。

【リスク一覧表】

リスク項目内容影響度
業務停止リスク社長が病気やケガで離脱すると業務が完全に止まる致命的
品質のばらつき社長の体調や気分で成果物の品質が変動する高い
成長の限界社長の処理能力が会社の成長の上限になる高い
ノウハウ消失リスク社長に万が一のことがあれば全てのノウハウが失われる致命的
ブラックボックス化業務実態が見えず、ミスの発見が遅れる中〜高

属人化レベル診断

あなたの会社の属人化レベルをチェックしてみましょう。

チェック項目はいいいえ
1週間以上の休暇を取ったことがない
自分がいないと進められない業務が3つ以上ある
取引先から「社長でないと話にならない」と言われる
業務マニュアルが存在しない
社員が判断を仰がずに動けることが少ない
「自分でやった方が早い」が口癖になっている
銀行口座の残高を知っているのは自分だけ
重要な取引先の担当は全て自分

【診断結果】

「はい」の数属人化レベルコメント
0〜2個低い健全な組織運営ができています
3〜4個やや高い改善の余地があります
5〜6個高い早急な対策が必要です
7〜8個非常に高い危険水域。今すぐ改革を

【罠②】燃え尽き症候群——休めない社長の末路

経営者の燃え尽き症候群とは

燃え尽き症候群(バーンアウト症候群)は、WHOが2018年に国際疾病分類で正式に定義した状態です。長期間にわたるストレスや過労が原因で、精神的・肉体的にエネルギーが枯渇してしまいます。

燃え尽き症候群の3つの特徴

特徴症状社長に現れる具体例
エネルギーの枯渇慢性的な疲労感、倦怠感朝起きられない、何をするにも億劫
仕事からの精神的距離仕事への否定的・冷笑的な感情「何のために経営しているのか」と感じる
業績・達成感の低下自己効力感の喪失「自分には経営の才能がない」と思い込む

燃え尽きやすい経営者の特徴

特徴説明該当する?
完璧主義全てを完璧にこなそうとする
責任感が強い全ての責任を自分で背負おうとする
相談できない弱みを見せることに抵抗がある
休むことに罪悪感休暇を取ると不安になる
公私の境界が曖昧24時間仕事のことが頭から離れない

燃え尽き症候群の危険サイン

以下のサインが出ていたら、すでに危険水域に入っている可能性があります。

【危険サイン早見表】

身体的サイン
├─ 朝起きるのがつらい
├─ 慢性的な疲労感が取れない
├─ 頭痛や胃痛が増えた
├─ 睡眠の質が低下した
└─ 食欲の変化(過食または食欲不振)

精神的サイン
├─ イライラしやすくなった
├─ 集中力の低下
├─ 何をしても楽しくない
├─ 将来への不安が消えない
└─ 「逃げ出したい」と思うことがある

行動的サイン
├─ 飲酒量が増えた
├─ 趣味や余暇を楽しめなくなった
├─ 人と会うのが億劫になった
├─ 仕事の先延ばしが増えた
└─ 些細なことで感情的になる

燃え尽き症候群が経営に与える影響

影響具体的内容深刻度
判断力の低下重要な経営判断でミスが増える★★★★★
人間関係の悪化従業員や取引先との関係がぎくしゃくする★★★★☆
業績の低下モチベーション低下により売上が減少★★★★☆
健康被害うつ病などの精神疾患、過労による身体疾患★★★★★
最悪の事態倒産、廃業、または経営者自身の入院★★★★★

【罠③】後継者不在——会社の未来が見えない

深刻化する後継者問題

帝国データバンクの2024年調査によると、全国の後継者不在率は52.1%。つまり、約半数の企業で後継者がいない状態です。

【後継者不在率の推移】

後継者不在率の推移(帝国データバンク調査)

2019年 ┃████████████████████████████████████ 65.2%
2020年 ┃██████████████████████████████████ 63.5%
2021年 ┃████████████████████████████████ 61.5%
2022年 ┃██████████████████████████████ 57.2%
2023年 ┃████████████████████████████ 53.9%
2024年 ┃███████████████████████████ 52.1%
        0%    20%    40%    60%    80%

改善傾向にはありますが、依然として半数以上の企業が後継者問題を抱えています。

経営者年代別の後継者不在率

経営者の年代後継者不在率コメント
30代81.8%事業が軌道に乗る前で未検討
40代約75%まだ先の話と考えている
50代約72%危機感が薄いまま時間が過ぎる
60代約48%焦りを感じ始めるが遅い
70代28.5%急いで探し始める
80代以上約24%時間切れのケースも多い

後継者問題が深刻化する「一人社長」の特徴

社長一人で会社を回している企業は、後継者問題がより深刻になりやすい傾向があります。

特徴後継者育成への影響
全ての業務を社長が把握引き継ぐべき業務量が膨大で、承継に時間がかかる
マニュアルがない暗黙知が多く、ノウハウの伝達が困難
社員が育っていない社内から後継者候補を選べない
社長の人脈に依存取引関係の承継が難しい
資金繰りを社長が一括管理財務状況の把握・引き継ぎが困難

後継者難倒産の増加

2024年1〜10月の「後継者難倒産」は455件。2年連続で500件を上回る高水準で推移しています。

後継者難倒産件数前年比
2019年324件
2020年340件+4.9%
2021年381件+12.1%
2022年432件+13.4%
2023年564件+30.6%
2024年(1-10月)455件前年同期とほぼ同水準

事業承継に必要な期間

承継準備の内容必要期間備考
後継者の選定1〜2年社内・親族・外部から選定
後継者の育成3〜5年経営ノウハウの伝達
取引先・金融機関への周知1〜2年信頼関係の構築
株式・資産の移転1〜3年税務対策含む
合計5〜10年早めの準備が不可欠

事業承継は一朝一夕にはできません。「まだ早い」と思っている60代の経営者でも、実は準備を始めるべき時期に来ています。


3つの罠に陥っていないかセルフチェック

以下の総合チェックシートで、あなたの会社の危険度を診断してみましょう。

【総合危険度チェックシート】

No.チェック項目関連する罠該当
11年以上まとまった休暇を取っていない属人化/燃え尽き
2自分がいないと回らない業務が複数ある属人化
3最近、疲れが取れないと感じる燃え尽き
4後継者について具体的に考えたことがない後継者不在
5業務マニュアルが存在しない属人化/後継者不在
6経営の悩みを相談できる相手がいない燃え尽き
7「自分でやった方が早い」が口癖属人化
8休日も仕事のことが頭から離れない燃え尽き
9社員に仕事を任せることに不安がある属人化
105年後、10年後の会社像が描けない後継者不在
11最近イライラすることが増えた燃え尽き
12重要な取引先との関係は自分だけが把握属人化/後継者不在

【診断結果】

該当数危険度今すぐやるべきこと
0〜3個低い現状維持しつつ、予防策を検討
4〜6個やや高い3ヶ月以内に改善計画を立てる
7〜9個高い今月中に専門家に相談する
10〜12個非常に高い今週中に対策を開始する

罠から抜け出すための5つのステップ

ステップ1:業務の棚卸しと可視化

まず、社長が現在抱えている業務を全て洗い出します。

【業務棚卸しシート(例)】

業務内容頻度所要時間/回自分でないとダメ?優先度
売上管理・入金確認毎日30分×
請求書発行月末2時間×
新規顧客への営業随時
既存顧客フォロー週1回3時間
経費精算月1回1時間×
採用面接随時
経営戦略立案随時最高

「自分でないとダメ」の欄に×がつく業務は、委譲・外注の候補です。

ステップ2:マニュアル化・仕組み化

業務を「見える化」したら、次はマニュアル化です。

【マニュアル作成の優先順位】

優先度対象業務理由
最優先日次・週次で発生する定型業務頻度が高く、効果が出やすい
顧客対応のフロー品質を均一化できる
経理・財務関連正確性が求められる
発生頻度が低い業務余裕ができてから

ステップ3:権限委譲と人材育成

社員がいる場合は、段階的に権限を委譲していきます。

【権限委譲の4段階】

段階内容社長の関わり方
第1段階社長の指示通りに実行してもらう指示を出し、結果を確認
第2段階実行方法は任せ、報告を受ける方向性を示し、報告を受ける
第3段階判断も任せ、結果だけ報告目標を設定し、結果を評価
第4段階完全に任せる定期的な確認のみ

ステップ4:外部リソースの活用

全てを社内で抱える必要はありません。外部の専門家やサービスを活用しましょう。

【外注・アウトソーシングの選択肢】

業務分野外部リソース月額目安
経理・会計税理士、経理代行サービス3〜10万円
労務・人事社労士、人事代行3〜8万円
IT・システムITコンサル、システム会社5〜20万円
営業支援営業代行、テレアポ代行10〜30万円
秘書・事務オンライン秘書サービス5〜15万円

ステップ5:定期的な振り返りと改善

改革は一度やって終わりではありません。定期的に振り返り、改善を続けることが重要です。

【月次振り返りチェックリスト】

チェック項目今月の状況来月の目標
社長の労働時間  時間/日  時間/日
委譲できた業務数  件  件
まとまった休暇□取れた □取れなかった□取る □未定
後継者育成の進捗□順調 □遅れ気味 □未着手
メンタルの状態□良好 □普通 □要注意

実践者の声——脱・一人経営に成功した社長たち

事例1:製造業A社長(58歳)の場合

Before

項目状況
従業員数8名
社長の労働時間12時間/日
休暇取得年間0日
後継者未定
属人化業務営業、品質管理、資金繰り全て

取り組んだこと

  • 業務の棚卸しを実施し、リスト化
  • 品質管理業務のマニュアルを作成
  • ベテラン社員に営業同行を開始
  • 税理士に経理業務の一部を委託

After(1年後)

項目状況変化
社長の労働時間9時間/日-3時間
休暇取得年間10日+10日
後継者ベテラン社員を候補に育成中進捗中
属人化業務営業と経営判断のみ大幅削減

A社長のコメント

「最初は『任せたら品質が落ちる』と思っていました。でも、マニュアルを作って段階的に任せてみたら、社員の方が細かいところに気づいてくれることもありました。今は『もっと早くやればよかった』と思っています」


事例2:サービス業B社長(45歳)の場合

Before

項目状況
従業員数3名(パート含む)
社長の労働時間14時間/日
メンタル状態慢性的な疲労、不眠
相談相手なし

取り組んだこと

  • 経営者向けのコーチングを受講
  • オンライン秘書サービスを導入
  • 同業の経営者コミュニティに参加
  • 週1回の「ノー残業デー」を設定

After(6ヶ月後)

項目状況変化
社長の労働時間10時間/日-4時間
メンタル状態良好、睡眠改善大幅改善
相談相手コーチ+経営者仲間3名確保
売上前年比115%+15%

B社長のコメント

「燃え尽き寸前でした。コーチングで『完璧を求めすぎている』と指摘されてハッとしました。経営者仲間ができたことで『自分だけじゃない』と思えるようになり、気持ちが楽になりました。不思議なことに、働く時間を減らしたのに売上は増えました」


事例3:建設業C社長(62歳)の場合

Before

項目状況
創業35年
後継者息子がいるが継ぐ意思なし
課題廃業を考え始めていた

取り組んだこと

  • 事業承継・引継ぎ支援センターに相談
  • 社内のベテラン社員(50代)と面談
  • 段階的な権限委譲を開始
  • M&Aの可能性も並行して検討

After(2年後)

項目状況変化
後継者ベテラン社員に決定確定
承継計画5年計画で進行中策定完了
社長の心境「会社を残せる」安心感前向きに

C社長のコメント

「息子が継がないとわかった時は、35年かけて築いた会社がなくなるのかと絶望しました。でも支援センターで『社員承継という選択肢がある』と教えてもらい、目の前が開けた気がしました。今は後継者と一緒に会社の未来を描いています」


まとめ

社長一人で会社を回し続けることには、「属人化」「燃え尽き症候群」「後継者不在」という3つの深刻な罠が潜んでいます。

【3つの罠と対策まとめ】

主な症状対策のポイント
属人化社長がいないと業務が止まるマニュアル化、権限委譲、外部活用
燃え尽き症候群慢性的疲労、意欲低下休暇取得、相談相手確保、仕事の見直し
後継者不在会社の将来が描けない早めの準備、候補者育成、専門家相談

これらの罠は、放置すればするほど深刻化します。しかし、今日から対策を始めれば、必ず状況は改善できます。

今日からできる3つのアクション

  1. 業務の棚卸し——まず、自分が抱えている業務をリストアップする
  2. 相談相手を見つける——同業の経営者、専門家、コーチなど
  3. 1つだけ委譲してみる——小さな業務から始めて成功体験を積む

一人で全てを背負う必要はありません。あなたの会社が持続的に成長し、次の世代に引き継がれていくために、今日から一歩を踏み出しましょう。

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