社員が動かない原因は能力ではない|小規模企業のマネジメント再設計

はじめに:「うちの社員は使えない」は本当か?

「何度言っても動かない」

「指示待ちばかりで自分から動かない」

「能力が低いから仕方ない」

小規模企業の経営者から、こうした声をよく聞く。

しかし、断言しよう。社員が動かない原因の9割は、能力ではない。

問題は、マネジメントの設計にある。

本記事では、小規模企業で「社員が動かない」と悩む経営者に向けて、その本当の原因と、マネジメントを再設計するための具体的な方法を解説する。

社員を責める前に、まずこの記事を読んでほしい。


データで見る:社員が動かない本当の理由

社員が「動かない」原因調査

社員本人に「なぜ積極的に動けないのか」を聞いた調査結果がある。

原因回答率分類
何をすべきか明確にわからない68%指示・方針の問題
やっても評価されないと感じる62%評価・承認の問題
失敗すると怒られる雰囲気がある57%心理的安全性の問題
自分の意見が反映されない54%参画意識の問題
会社の目標や方向性がわからない51%ビジョン共有の問題
上司・経営者との信頼関係がない48%関係性の問題
仕事の意味・価値がわからない45%意義づけの問題
能力・スキルが足りない23%能力の問題

注目すべきは、「能力・スキルが足りない」と答えた人は23%しかいないという点だ。

つまり、約8割の「動かない」は、能力以外に原因がある。

経営者の認識とのギャップ

一方、経営者に「社員が動かない原因は何か」を聞くと、全く異なる結果になる。

経営者が考える原因回答率社員の実感との差
能力・スキルが足りない71%+48pt
やる気・モチベーションがない65%
責任感がない58%
指示を聞いていない52%
会社への愛着がない45%
コミュニケーション能力がない42%
何をすべきか明確にわからない18%-50pt
評価されないと感じている12%-50pt

経営者と社員の認識には、大きなギャップがある。

経営者は「社員の能力・やる気の問題」だと思い、社員は「会社の仕組み・環境の問題」だと感じている。

このギャップを埋めない限り、問題は解決しない。


小規模企業特有のマネジメント問題

大企業と小規模企業の違い

小規模企業には、大企業とは異なるマネジメント課題がある。

項目大企業小規模企業(30名以下)
組織体制明確な階層・役割分担曖昧、兼務が多い
評価制度制度化されている経営者の主観に依存
教育・研修体系的なプログラムOJT中心、場当たり的
キャリアパス明示されている不明確
経営者との距離遠い近い(良くも悪くも)
意思決定手続きが必要経営者の一存
情報共有仕組み化されている属人的

小規模企業でよく起きる問題

問題発生率具体的な状況
役割の曖昧さ78%「それは誰の仕事?」が頻発
経営者依存72%経営者がいないと何も決まらない
評価の不透明さ68%何をすれば評価されるかわからない
情報の偏り65%経営者だけが情報を持っている
朝令暮改61%方針がコロコロ変わる
声の大きい人が有利58%実力より存在感で評価される
教育の放置55%「見て覚えろ」文化

社員が動かない7つの本当の原因

原因1:ゴールが見えない

社員が動かない最大の原因は、何を目指しているのかわからないことだ。

ゴールの明確さ主体的に動く社員の割合
会社の目標を明確に理解している78%
なんとなく理解している42%
よくわからない15%
全く知らない8%

経営者の声

「うちは売上目標くらい共有している」と思っていたが、社員に聞いたら誰も覚えていなかった。数字を伝えるだけでは、ゴールを共有したことにならないと気づいた」 ——製造業 経営者(52歳・男性)

原因2:役割が曖昧

小規模企業では、役割分担が曖昧なことが多い。

役割の明確さ業務効率主体性ストレス
明確に定義されている高い高い低い
ある程度決まっている中程度中程度中程度
曖昧・その都度変わる低い低い高い

社員の声

「自分の仕事が何なのか、正直よくわからない。気づいたら何でも屋になっていて、何を頑張ればいいのかわからなくなった」 ——サービス業 社員(28歳・女性)

原因3:評価基準がない

何をすれば評価されるのかわからないと、社員は動きようがない。

評価制度の状態該当企業の割合社員のモチベーション
明文化された評価制度がある18%高い
基準はあるが曖昧35%中程度
経営者の主観で決まる47%低い

社員の声

「頑張っても頑張らなくても給料は同じ。評価されるポイントもわからない。だったら最低限でいいか、と思ってしまう自分がいる」 ——小売業 社員(32歳・男性)

原因4:失敗が許されない空気

心理的安全性がない職場では、社員は萎縮して動けなくなる。

失敗への反応社員の行動変化
失敗を責める、怒る挑戦しなくなる、隠蔽する
失敗を無視する学習しない、繰り返す
失敗を一緒に分析する挑戦する、改善する
失敗を称える(挑戦を評価)積極的に動く、報告する

経営者の声

「昔は失敗すると怒鳴っていた。今思えば、それで社員が萎縮して、報告も相談もしなくなった。問題が大きくなってから発覚するようになり、悪循環だった」 ——建設業 経営者(58歳・男性)

原因5:意見が反映されない

自分の意見が反映されないと、社員は「どうせ言っても無駄」と諦める。

意見の扱い社員の参画意識離職率
積極的に取り入れる非常に高い低い
聞くが採用は稀中程度中程度
そもそも聞かない低い高い
意見すると否定される非常に低い非常に高い

社員の声

「何か提案しても『今は難しい』『うちでは無理』で終わる。3回くらい続いたら、もう何も言わなくなった」 ——IT企業 社員(29歳・男性)

原因6:仕事の意味がわからない

自分の仕事が何につながっているのかわからないと、モチベーションは上がらない。

仕事の意義理解度エンゲージメント生産性
会社・社会への貢献を実感非常に高い135%
なんとなく理解中程度100%
わからない低い72%
意味がないと感じる非常に低い48%

社員の声

「毎日同じ作業の繰り返し。これが何の役に立っているのか、誰も教えてくれない。ロボットになった気分になることがある」 ——製造業 社員(35歳・男性)

原因7:信頼関係がない

経営者と社員の信頼関係がなければ、どんな施策も機能しない。

信頼関係の状態社員の本音
信頼している「この人のために頑張りたい」
どちらでもない「仕事だからやる」
信頼していない「言われたことだけやればいい」
不信感がある「早く辞めたい」

マネジメント再設計:7つのステップ

ステップ1:ビジョン・ゴールを言語化する

まず、会社が目指す方向を明確に言語化する。

言語化すべき項目
ミッション(存在意義)〇〇を通じて、△△な社会を作る
ビジョン(目指す姿)3年後に業界No.1の〇〇企業になる
年間目標売上〇億円、利益率〇%、顧客満足度〇点
行動指針大切にする価値観、判断基準

実践のポイント

やるべきこと避けるべきこと
シンプルな言葉で表現抽象的・難解な表現
繰り返し伝える一度言って終わり
自分の言葉で語る借り物の言葉
行動で示す言うだけで実践しない

ステップ2:役割を明確に定義する

誰が何に責任を持つのかを、明確に定義する。

定義すべき項目内容
担当業務具体的な業務内容
権限自分で決められる範囲
責任成果に対する責任範囲
報告ライン誰に報告するか
期待成果何を達成すれば良いか

役割定義シートの例

項目内容
役職名営業リーダー
担当業務新規顧客開拓、既存顧客フォロー、チームメンバー育成
権限10万円以下の値引き判断、アポイント日程調整
責任チーム月間売上目標の達成
報告ライン毎週月曜に経営者へ報告
期待成果月間売上500万円、新規顧客5社

ステップ3:評価基準を透明化する

何をすれば評価されるのかを、明確に伝える。

評価要素配分例評価方法
成果(数値目標)50%売上、件数、達成率など
プロセス(行動)30%報告頻度、改善提案、協力姿勢
成長(スキルアップ)20%新しいスキル習得、資格取得

評価制度を作る際のポイント

ポイント説明
シンプルにする複雑すぎると誰も理解しない
数値化できるものは数値化主観を減らす
定期的にフィードバック年1回ではなく月1回以上
評価理由を説明する結果だけでなく理由を伝える

ステップ4:心理的安全性を確保する

失敗を恐れず挑戦できる環境を作る。

施策効果実施難易度
「失敗歓迎」を明言する★★★★☆★★☆☆☆
経営者自身が失敗を共有する★★★★★★★★☆☆
失敗報告を称える★★★★★★★★☆☆
責める言葉を禁止する★★★★☆★★★★☆
小さな挑戦を推奨する★★★★☆★★☆☆☆

経営者が使うべき言葉と避けるべき言葉

避けるべき言葉使うべき言葉
なんで失敗したんだ何が原因だったと思う?
前にも言っただろもう一度確認しよう
考えればわかるだろどう考えた?
そんなこともできないのかどこで困っている?
言い訳するな状況を教えて

ステップ5:意見を吸い上げる仕組みを作る

社員の意見を聞き、反映する仕組みを作る。

仕組み頻度効果
1on1ミーティング週1回〜月1回★★★★★
改善提案制度随時★★★★☆
匿名アンケート月1回〜四半期1回★★★★☆
全体ミーティング週1回〜月1回★★★☆☆
経営者との食事会月1回〜四半期1回★★★☆☆

1on1ミーティングで聞くべき質問

質問目的
最近、困っていることはある?課題の早期発見
もっとこうしたいと思うことは?改善アイデアの収集
今の仕事で楽しいことは?モチベーションの把握
会社に対して言いたいことは?不満の吸い上げ
自分のキャリアについてどう考えている?将来の希望の把握

ステップ6:仕事の意味を伝え続ける

日々の仕事が、何につながっているのかを伝え続ける。

伝え方効果
お客様の声を共有する★★★★★
売上・利益への貢献を見える化★★★★☆
会社の成長と個人の貢献をつなげる★★★★★
社会への影響を伝える★★★★☆
感謝の言葉を直接伝える★★★★★

経営者の声

「毎朝の朝礼で、お客様からの感謝のメールを読み上げるようにした。それだけで、社員の表情が変わった。自分の仕事が誰かの役に立っていると実感できることが、こんなに大事だったとは」 ——サービス業 経営者(45歳・女性)

ステップ7:信頼関係を築く

全ての土台となる、経営者と社員の信頼関係を築く。

信頼を築く行動信頼を壊す行動
約束を守る約束を破る
一貫性のある言動言うことがコロコロ変わる
弱みを見せる完璧を装う
感謝を伝える当然と思う
公平に扱うえこひいきする
話を最後まで聞く途中で遮る
困った時に助ける見て見ぬふり

マネジメント再設計の成功事例

事例1:製造業(従業員12名)

指標改善前改善後(1年)変化
離職率25%8%-17pt
生産性(一人当たり売上)850万円1,100万円+29%
社員満足度48点72点+24点
改善提案数年3件年28件9倍
経営者の労働時間週70時間週50時間-20時間

実施した施策

  • 週1回の全体ミーティングで目標と進捗を共有
  • 役割分担表を作成し、全員に配布
  • 月1回の1on1ミーティングを導入
  • 「失敗報告賞」を設置(月間最も良い失敗に賞金)
  • 毎日の朝礼で「ありがとう」を伝え合う時間を設置

事例2:IT企業(従業員8名)

指標改善前改善後(8ヶ月)変化
売上月商800万円月商1,400万円+75%
残業時間月45時間月20時間-56%
受注単価50万円85万円+70%
社員からの提案ほぼゼロ週5件以上
顧客満足度72点89点+17点

実施した施策

  • 3年後のビジョンを全員で議論して策定
  • 評価制度を作成し、四半期ごとにフィードバック
  • Slackで日報共有、成果を全員で称え合う文化
  • 失敗事例を「学びの共有」として週報に記載
  • 月1回の全員参加の振り返り会

事例3:小売業(従業員15名)

指標改善前改善後(1年半)変化
客単価3,200円4,100円+28%
リピート率35%52%+17pt
スタッフ定着率60%88%+28pt
接客評価3.2点4.5点+1.3点
クレーム件数月8件月1件-88%

実施した施策

  • 接客の「行動指針」を全員で策定
  • 接客ロールプレイを週1回実施
  • お客様アンケートの結果を毎週共有
  • 良い接客をした人を「今週のMVP」として表彰
  • スタッフ同士が感謝を伝える「サンクスカード」導入

マネジメント再設計でよくある失敗

失敗パターンと対策

失敗パターン原因対策
施策が続かない仕組み化されていない曜日・時間を固定してルーティン化
社員が本気にならない経営者が本気じゃないまず経営者が率先して実践
形だけになる目的を忘れている定期的に「何のためか」を確認
一部の社員しか変わらない巻き込み不足キーパーソンから順に巻き込む
逆に混乱が起きる一度に変えすぎ1つずつ順番に導入

経営者がやりがちなNG行動

NG行動なぜダメか改善策
最初だけ熱心、すぐ飽きる社員が信用しなくなる最低6ヶ月は継続
自分だけ例外説得力がなくなる自分が一番守る
成果を急ぎすぎる社員がプレッシャーで萎縮3ヶ月〜半年は我慢
できない社員を責める心理的安全性が崩壊仕組みの問題として捉える
全部自分でやろうとする持続できない社員に任せる部分を作る

経営者の意識改革が最も重要

経営者自身のチェックリスト

以下の質問に正直に答えてみてほしい。

質問はいいいえ
会社のビジョンを社員に語ったことがある
社員の役割を明文化している
評価基準を社員に説明している
社員の話を最後まで聞いている
失敗を責めずに分析している
社員の意見を実際に採用したことがある
感謝の言葉を日常的に伝えている
自分の失敗を社員に共有している
社員と1対1で話す時間を定期的に取っている
社員の成長を心から喜んでいる

「いいえ」が5つ以上なら、社員ではなく自分自身を変える必要がある。

経営者の声(変化の実感)

製造業 経営者(55歳・男性)

「正直、最初は『なんで俺が変わらなきゃいけないんだ』と思っていた。でも、試しに1ヶ月だけやってみたら、社員の反応が明らかに変わった。自分が変われば、周りも変わる。当たり前のことに気づくのに、20年かかった」

サービス業 経営者(42歳・女性)

「『社員が動かない』と愚痴っていた時期があった。でも、よく考えたら、動ける環境を作っていなかったのは自分。今は『動ける環境を作るのが自分の仕事』と思えるようになった」

IT企業 経営者(38歳・男性)

「社員を信頼していなかったんだと思う。だから任せられず、全部自分でやって、疲弊して、社員にも八つ当たり。悪循環だった。社員を信頼して任せてみたら、自分より上手くやってくれることもあった」


まとめ:社員が動かないのは「仕組み」の問題

社員が動かない原因は、能力ではない。

「動ける仕組み」が整っていないだけだ。

今日からできる第一歩

アクション所要時間効果
社員一人ひとりに「ありがとう」を伝える5分★★★★☆
会社の目標を改めて全員に伝える30分★★★★★
1人の社員と1on1で話す時間を作る30分★★★★★
社員の意見を1つ採用して実行する1時間★★★★★
自分の失敗談を社員に共有する10分★★★★☆

忘れないでほしいこと

ポイント
社員が動かないのは、社員のせいではない
マネジメントは「再設計」できる
経営者が変われば、社員も変わる
仕組みを変えれば、行動が変わる
小さな一歩から始めればいい

社員を責める前に、まず自分自身と、会社の仕組みを見直してみてほしい。

きっと、変化は起こせる。

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